2025.09.05

いろいろな感覚刺激体験

「ゆめ水族園」その後の施設紹介

ゆめ水族園を開催した施設の皆さまからのアンケートによると、「今後は、ゆめ水族園を参考に、普段の療育活動や授業の中でプロジェクターによる投映をもっと活用してみたい」という声が聞かれます。その反面「準備する人や時間が足りない」という理由から持続的な活動が難しいという側面も見られます。そんな中、今回は、ゆめ水族園を一度限りのイベントにするのではなく、その後も継続的に、利用者さんと一緒に映像を使った感覚刺激体験を続けている施設をご紹介します。今回はちょうど季節を感じる感覚刺激のイベントを開催中に見学させていただきました。

2019年度に「ゆめ水族園」を開催した「あしかがの森足利病院・あしかが通園センター」

栃木県足利市にあるこの病院は重症心身障害児・者の方の医療・療育・生活支援を主体とし、更に神経難病・小児科、小児慢性疾患の方や地域の方の診療や健康管理も行っている、医療と福祉を兼ね備えた施設です。病院には3歳から80歳を超える高齢者の方が入所されており、普段、なかなか外に出ることができない利用者さんも多くいらっしゃいます。

ゆめ水族園開催当時の様子(2019年)

刺激を受けることが少ない環境の中で、ゆめ水族園で映像、音、触覚の感覚刺激を受けた事は利用者さんにとても良い時間になったようです。

今回、取材した「あしかが通園センター」は、地域支援、在宅の重症心身障害児者の方々の日中活動の場の提供という目的で整備され、リフト付きのバスや保護者による送迎で、栃木県南部地域、両毛地域から通園しています。普段の日中活動では、運動機能や日常生活動作の維持向上のほかに、季節に合わせたイベントを通じ明るく、充実した生活ができるようサポートしています。

プロジェクターと感覚を刺激する素材を使用した映像空間の中で日中活動

「あしかが通園センター」の職員の方々は、「ゆめ水族園」の体験を通して得られた利用者さんの変化に感動し、その後も事業所内の日中活動に取り入れる検討を始めました。途中コロナ禍で活動が制限される時期もありましたが、少しずつプロジェクターを活用し、複数の感覚を織り交ぜながら体験できる空間づくりに挑戦し、改良を重ねたそうです。この持続的な取り組みが「第17回読売療育賞」(読売光と愛の事業団主催)の受賞につながりました。今では「プロジェクションシアター」という名称で、プロジェクター複数台と、感覚素材を使用した空間の中で定期的に活動しているとのことです。

年に数回、定期的に行われるこの活動は、職員の方々が集まって、季節に合わせて、テーマを決めて活動しています。活動のはじめに、チーム内でイメージを共有するための設計図(以下参照)を作ります。今回取材した時は、ちょうど梅雨のシーズンでした。 「いつも、こんな風に計画図案を作ってやっていますよ。」ということで見せていただきました。

見ているだけで、ワクワクするような空間が描かれています。
細長い部屋の中、手前と奥はシーツを大きなスクリーンとして使っています。中央はすずらんランテープを暖簾のように垂らして、空間を仕切り、それぞれ趣の異なる空間で、利用者さんの興味を引き付けるような工夫がされています。

季節感を出す工夫で、ジュエルボールや冷却シートを、オタマジャクシやお魚に見立てた「感触」のコーナーが会場の中央にあります。利用者さんは、「何が入っているのかな?」と興味津々で手を入れ、「ちょっと、冷たい。」とニコニコしながら触っていました。

雨のアジサイ公園を模したエリアに、「ガタガタ河原道」のコーナーがあります。
床にスポンジを敷いて布で覆い養生テープで固定し、その上を車いすで通過します。職員の方が、前方に気をつけながら注意深く前に進めると、まるでぬかるんだ河原道を進んでいるようです。傘をさしながら、ゆっくりと映像の前まで進みます。そこで、職員の方が霧吹きで傘の上に“雨”を降らせます。普段、傘をさしながらお出かけする機会がないそうで、利用者さんはとても楽しそう。半透明の傘の先に見える映像をじっと見つめる方もいました。

ホタルを楽しむエリアでは、大画面に舞うホタルを眺めたり、壁に仕掛けた蛍光ホタルにブラックライトを照らして探したり、それぞれが好きな場所で楽しんでいます。普段の療育活動では、座位での姿勢の安定が難しい方でも、このような活動になると車いすに座っていてくれることが多いそうです。

感覚刺激体験を続けられるポイント

その1 次につながる手応えを感じる職員の方々

職員の方は、「(このような活動をして)利用者さんの反応を見ながら、喜んでいる様子が分かると、次はどんな事を企画しようかな?という気持ちになります。」と話していました。また、利用者さん側も、この活動は恒例となり、楽しみにしている様子もうかがえました。特に印象的だったのは、ゆめ水族園で見られるような「思わず手が伸びる」という反射的な動きだけでなく、「これは何だろう」といった、興味・関心を積極的に向けられる様子です。このように、多彩な外部刺激を自ら感じ取ることで、生活にメリハリが生まれ、また、提供する職員の方々も達成感を得られるなど、次につながる良いサイクルが回っている様子が伺えます。

その2 短時間で設営、撤収ができる環境

会場になる場所は、普段の療育活動でも利用しますので、終わったらすぐに片付けて次の活動に入ります。「準備や、片付けは30分以内でできるようにしています。」とのことです。
準備の時は、遮光カーテンで部屋全体を暗くしたり、カーテンの裾からの光漏れを処理したり、ちょっとした作業も丁寧に、テキパキと行います。次にプロジェクターの設置。プロジェクターは専用の固定台があり、慣れた手つきで機器の接続など準備完了。最後は、季節を感じる小物の準備をしていよいよ利用者さんたちの入場を待ちます。
片付けも準備と同様にテキパキと。感覚を楽しんだでこぼこ河原道もバリバリと剥がして、現状復帰します。限られた時間の中で職員の方のチームワークよく、仕掛けもシンプルであることが、長く続けられる秘訣かもしれません。

茶色の布の下はスポンジが入っています。片付けやすい小道具です。

次回の開催は「秋」をテーマに模索中で、「裏山から枯れ葉を集めて、お部屋に敷いて秋らしい映像と一緒にプロジェクションシアターをやりたい。」との事です。「カサカサ」と落ち葉の上を進むような疑似体験で、里山の風景の映像空間を散策するのも楽しそうですね。

ゆめ水族園のめざす感覚刺激体験に季節の変化などを加え、独自の感覚刺激体験ができる空間を作り上げていく職員の方々の姿、日々の創意工夫が、私たちにとっても貴重な学びの機会となりました。

皆さんもこれを参考に映像を使った感覚刺激体験を日中活動に取り入れてみてはいかでしょうか。