本物の海を見せてあげたい、けれどそれは叶わない
苅田 知則さん
愛媛大学
教育学部 教授/附属インクルーシブ教育センター センター長
つながり:「ファンタスカー貸出し」2025年度実施
私たちが支援する「訪問カレッジ」の学生たちの多くは、重い障害や医療的ケアを必要とし、人生のほとんどをベッドの上や室内で過ごしています。彼らにとって、外の世界は遠く、時に閉ざされたものです。しかし、エプソン様の「ゆめ水族園」は、その壁を鮮やかに、そして優しく取り払ってくれました。
1. 病院の天井が、命きらめく「深い海」に変わった瞬間
「ファンタスカー」が運び込まれ、スイッチが入った瞬間、天井や壁は、一瞬にして幻想的な深海へと姿を変えました。 特筆すべきは、カレッジ生たちの「目」の変化です。普段、周囲への反応が微かであるカレッジ生が、ゆらゆらと舞うクラゲの光をじっと見つめ、その動きを追ってゆっくりと首を動かしました。言葉を超えた「驚き」と「喜び」が、その瞳の輝きに宿ったのです。 付き添っていたご家族やスタッフからも、「この子のこんなに真剣で、穏やかな表情は初めて見た」と感嘆の声が漏れました。それは、単なる映像鑑賞ではなく、彼らの魂が外の世界と確かに繋がった「学び」の瞬間でした。
2. 「どこへでも運べる」が、可能性を無限にする
今回の活動を支えてくれたのは、軽自動車に収まるコンパクトな「ファンタスカー」の機動力でした。 ご自宅や病室・施設の部屋などでは、大きな機材では搬入できない場合も少なくありません。そんな「諦めていた場所」にこそ、この輝きを届ける意味があります。同じく病院や施設を利用される方々も吸い寄せられるように集まってこられ、ゆめ水族園を中心に、世代を超えた温かな交流の輪が自然と広がっていきました。
3. 「学ぶ権利」をすべての人に
私たち愛媛大学は、どんなに障害が重くても、一生涯を通じて感性を磨き、世界を広げる「生涯学習」の権利を保障したいと考えています。 「ゆめ水族園」は、身体的な制約によって移動を制限されている人々にとって、最高の「どこでもドア」です。暗闇の中に浮かび上がる色鮮やかな魚たちは、学生たちの五感を震わせ、生きるエネルギーを呼び起こしてくれました。
もし、この記事を読んでいる施設や教育関係者の方がいらっしゃれば、ぜひ勇気を持って一歩踏み出してみてください。その場所がどこであっても、光と音があれば、そこはもう「自由な海」になるのですから。
私たちはこれからも、エプソン様、そして地域の皆様と共に、誰もが「学ぶ喜び」を分かち合えるインクルーシブな未来を照らし続けていきたいと思います。